三浦日記

音楽ライターの三浦智文が、日記のようにつらつらと書いていくブログ

エレカシの日比谷野音 2018 ライブレポート―全身全霊"魂の叫び"、獅子奮迅で走る男に垣間見えた"疲労感"

 29年連続となったエレカシの日比谷野音ライブは雨だった。今年は外でその演奏を聴くことになったが、雨にもかかわらず日比谷公園は大勢の"外聴き"のファンで溢れかえった―。例年、外で聴くときは決まって公園内にあるフードコートの近くにあるスペースの方へ行く。ただ、今年は2曲目の「Easy Go」の終盤あたりでようやく会場に到着したので、いつも座っている大木を囲むコンクリートは既に超満員になっていた。やむなく今年は傘を差しながら"スタンディング"で聴くことにした。ふと周りを見渡すと、大勢の"外聴き"ファンが傘をさして野音の方角を観ながら呆然と立っている。その姿は、傍から見たらさぞや不思議な光景に見えたはずだ―。

 3曲目の「おはよう こんにちは」は、降りしきる雨と格闘するかの如くつんざくような歌声を響かせる。続く「浮き草」は、2016年の野音以来となる演奏。この日の宮本の歌声は初期を彷彿させる叫ぶような歌いっぷりで、30年前にタイムスリップしたかのような錯覚に陥った。「上野の山」、「おれのともだち」と序盤の初期の楽曲のセットリストは続く。この日、渋さを一際引き立たせていたのは『風』(2004)から「人間って何だ」。〈人間って何だ? 戦う存在 / いってみりゃ自分を 越えていく存在〉雨に溶け出した力強い歌詞が体に沁み込んできた。そして、30年を経て最近のライブではすっかりキラーチューンとなった「星の砂」へ。演奏の度にその様相を維持させているどころか、さらなる進化をさせているのには脱帽せざるを得ない。

 この日、度肝を抜かされたのは「珍奇男」。べったりと張り付くようなにスローなテンポの宮本のギターストロークに追随するようについていくもったりとしたドラムの演奏。ドラムはいつもよりも手数を減らしているせいか、"間"がいつもより際立っていた。そして、そこには会場をゆがめるかのようなグルーブ感すら生まれている。"疾走感"は皆無だが、それに反比例するかのように"静と動"が生々しく感じられるようなアレンジだった。

 「珍奇男」で歪めた会場を戻すかの如く、現実世界、東京の雰囲気を凝縮したような「武蔵野」へ。毎回微妙にアレンジを変えてきているが、今年のバージョンは原曲のバージョンに忠実にといったところか。野音の雰囲気がそのすばらしさをさらに昇華させていた。続くのは最新アルバム『Wake Up』(2018)から「神様俺を」~「いつもの顔で」。6月の緑が生い茂る野音、そして雨の雰囲気にぴったりだった。そして、野音では5年振りとなる「さよならパーティー」へ。サビのファルセットの部分は『STARTING OVER』(2008)の発売当初の頃よりもきれいに出ていた。

 雨の野音で一際映えたのはなんといっても「かけだす男」⦅『ココロに花を』(1996)⦆だった。Aメロの〈かけだす 俺の向こうには / 雨が降りだして / ずぶぬれのままで かけぬけた / ずぶぬれのままで〉という歌詞が雨の風景に絶妙に溶け込んでゆく。30周年を怒涛の勢いで駆け抜けてきた男宮本が雨に打たれながら絶唱する様は、曲の世界観とこれ以上にないほどマッチしていた―。

 夏至を過ぎたばかりのこの季節は陽が落ちるのが遅い。この日もようやくという感じに陽が落ち始め、鉛色の空がだんだんと色濃くなってきた。そんな中披露されたのは「なぜだか俺は祈ってゐた」。外の聴衆は雨に打たれながら、目を閉じ耳を傾けている。それは祈りを捧げている様にも見えた。そんな神聖な雰囲気を一気に引き裂くかのように披露されたのは、「ズレてる方がいい」、「俺を生きる」。そして、近年のライブでは定番となった「RAINBOW」でボルテージを一気に上げ、第一部は終了する。

 2部の一曲目を飾ったのは「今宵の月のように」。この曲はもう何百回と歌ってきているはずなのにこの日は、どうもピッチが安定していなかった。それどころか声に"元気がない"ような感じさえあった。続く「笑顔の未来」でも何とか力で歌い切った感はあったが、本来の宮本の歌唱とは程遠い歌唱に、一抹の不安が生まれてきた。そして、野音の定番となった「友達がいるのさ」~「シグナル」へ。「友達がいるのさ」の終盤の部分で宮本は〈行くぜ! 来年も再来年もその先も、エブリバディ! 飛び出すぜ! 一緒に行こうぜ!〉と叫んでいた。半端なく魂がこもったその叫びは、自分自身を鼓舞しているようにも聴こえた―。

 彼らの代表曲の「悲しみの果て」も、この日は"盤石"という感じはなく、声に元気がない。いつもの宮本の内部にある爆発的な力を生み出す装置が、この日は安全装置が働いて歯止めがかかっているような感じがあった。続く「月の夜」では、その安全装置を作動させたまま、どうにか工夫して最大限の力を発揮しようとしているのが伝わってくる。ふと、空を見上げると覆っていた雲はすっきりと晴れ、月が青白い光を放っている。あたりからは瑞々しい夏の香りもする。月を眺め、"夏"を感じながら、「月の夜」を聴くのは2018年の東京においても何とも古典的な趣を感じた―。

 2部の最後は「男は行く」。宮本はさっきまで作動させていた安全装置を強引に壊しリミッターを解除させたかの如く、"力技"で絶唱をする。デビュー当時の気力と反骨心が再び蘇ったような歌声には"殺気"や"狂気的な恐ろしさ"すらを感じた。宮本はアンコールにもしっかりと答える。ただ、力はもう残っていなかった。なんというか、ボロボロの機体がそのまま強引に大気圏に突入して、火花を散らしながらバラバラに散りゆくような感じがあった。そんな最後の力を振り絞るような歌唱は、外からその声だけを聴いていても胸にくるものがあった―。

 雨の日比谷野音ライブ。1部は気力で何とかして歌っている感が伝わってきていたが、2部では完全に消耗しきっているのが声だけを聴いても否応なしに伝わってきた。宮本の歌声は、松脂が塗られていないバイオリンの音のようにかすれていた。しかしながら、彼は力を弱めることは決してなく、全身全霊で自身の不調と真っ向勝負をする。そんなわけで、最終盤の頃なると、まだまだ歌声を聴きたいというよりは、「もうこれ以上歌うのをやめてくれ」、というような心持で聴いている自分がどこかにいた。

 終演後、明らかに本調子でない感じでどのようにツアーを敢行するのかとを帰り道考えていた矢先に発表されたエレファントカシマシ TOUR 2018 “WAKE UP!!”」の名古屋公演の延期。思えば宮本は、最後の方のMCで2017年の怒涛の1年を「体力があるんじゃないかと錯覚した一年だった」と振り返る。"錯覚"という言葉がどうも耳に残った。現実と理想は違うということなのか、宮本も1人の50代の人間であることを感じたと同時に、再び最高のパフォーマンスを見せてくれることを、その日まで粛々と待ちたい。【ほぼ日刊三浦レコード61】

 

セットリスト

01. Wake Up
02. Easy Go
03. おはよう こんにちは
04. 浮き草
05. 上野の山
06. 人間って何だ
07. おれのともだち
08. 星の砂
09. 珍奇男
10. 武蔵野
11. 神様俺を
12. いつもの顔で
13. さよならパーティー
14. かけだす男
15. Destiny
16. なぜだか、俺は祷ってゐた。
17. ズレてる方がいい
18. オレを生きる
19. RAINBOW
20. 今宵の月のように
21. 笑顔の未来へ
22. 友達がいるのさ
23. シグナル
24. 悲しみの果て
25. 歩いてゆく
26. 月の夜
27. 旅立ちの朝
28. 男は行く
29. 星の降るような夜に(アンコール1)
30. ファイティングマン(アンコール1)

エレファントカシマシ/日比谷野外大音楽堂rockinon.com