三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

"真面目な不真面目"への飽くなき追求―奥田民生の4thアルバム『GOLDBLEND』レビュー

 奥田民生の通算4枚目となるアルバム『GOLDBLEND』(2000)。今までの作品同様、今作でも聴いていて気持ちの良い曲が勢ぞろいしている。奥田特有の"コード進行"や"ビートの気持ちよさ"、これは誰にも真似できないほどの領域にまできている。ただ、今作に関しては、そんな奥田の"いいところ"が部屋着やスウェットみたいなラフな格好で奏でられるというよりは、ジャケット写真にもあるように、スーツをピシッと着こなして、少しアダルトな雰囲気で奏でられているような印象を受ける。そして、その雰囲気というのは明るい曲にも感じられ、どことなく寂しげで哀愁さえ感じさせる。

 そんな『GOLDBLEND』は奥田の楽曲には無くてはならない60~70年代のロックンロールやロカビリーのサウンドがふんだんに盛り込まれ、相変わらずの"オマージュ"全開っぷりである。「マシマロ」のアウトロではThe Venturesの「Walk Don’t Run」風のギターソロが大胆にも登場する。また、The Beatlesのテイストも感じられる。「Get Back」のような出だしで始まる「荒野をゆく」。ピッチのずれたジョージ・ハリスン特有のギターの音色のリスペクトが所々見られる「羊の歩み」。アルバム『Magical Mystery Tour』のような浮遊感が感じられる「KING of KIN」。そして、歌詞には〈Tomato Juiceを飲みつつ 菌の事 言いつつ本当は LED ZEPPELINJIMI HENDRIXを 超えようとして〉とユーモラスかつサラっとリスペクトアーティストを登場させるという粋な計らいを見せてくる。

 メロディーとコード進行が気持ちの良い2分強のキラーチューン「彼は泣く」。前作『股旅』(1998)の「恋のかけら」では〈木のかげで泣いていた 美しい人〉が歌われていたが、本曲は1人の男が打ちひしがれている様が歌われている。この2曲は対になっているななんて思っていたら、『OKUDA TAMIO JAPAN TOUR MTR&Y 2010 2010/12/24』(2010)のセットリストで連続していて感動した節がある。

 歌い方をガラッと変え、打ち込みによるシンプルなサウンド乗せられさらっと吐き捨てるように歌われる「ウアホ」。奥田のある意味で"遊び"的なトラックではあるが、後ろではギターの音がかき鳴らされているのが微かに聞こえ、歌詞はメロディーに上手い具合に韻を踏みながらはめられている。まさに"真面目に不真面目"をやっているという感じ。この曲だけを聴いたらそれこそ「イージュー★ライダー」しか知らないような人にとっては奥田の楽曲だとは気が付かないかもしれない。そんな実験的な曲の後は「GOLDENBALL」、「KING of KIN」と、ふざけているんだか真面目なんだかわからない曲が続く。「イオン」は2000年当時"マイナスイオン"が流行っていたから"イオン"という曲名なのかなと思ったり。はたまた何かに形容しているのか、社会風刺なのか。あるいは「マシマロ」みたいに〈本文と関係ない〉のかもしれない…。

 アルバムの終盤、「ときめきファンタジーⅢ」で奥田のお家芸的ギターサウンドがさく裂したと思えば、「ふれあい」でしっとりと"愛"が歌われる。そんな音楽のジャンルの幅広さに脱帽したところで、奥田らしさ全開のオーソドックスなミドルチューン「近未来」で大トリに繋げる。そして、これほどまでにクライマックスを飾るにふさわしい楽曲はあったかというくらいの「トロフィー」でアルバムは鮮やかに締めくくられるのだった―。

 奥田の曲は直接的な批判は決してしないが何となく匂わせたり、あるもので形容したりして聴くものにゆだねるものが多い。本作はそんな奥田のスタイルが中年に差し掛かり、"真面目な不真面目さ"をさらに追及したサウンドで表現されている。また、スロー~ミドルテンポな曲が大半を占める本作。そのためか様々なジャンルや、特にこれといったコンセプトがなくても、それなりにいい感じのまとまりっぷりになっている。まさに『GOLDBLEND』の言葉が相応しい。

 そんなアルバム『GOLDBLEND』。例えるならば、有名珈琲店の店主が作る、様々な個性を持つ豆がバランスのよくブレンドされた"おすすめコーヒー"といった感じか。そしてそんなコーヒーをどこまでも続く広い荒野にある小さいログハウスで、1人暖炉にあたってくつろぎながら飲む。『GOLDBLEND』はそんなセンスの良い"渋さ"と、孤独で自由であることをどこまでも肯定してくれるような"包容力"を感じることができる、そんな作品である。【ほぼ日刊三浦レコード51】

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Track Listing

01. 荒野を行く
02. マシマロ
03. 彼が泣く
04. 羊の歩み
05. たったった
06. ウアホ
07. GOLDENBALL
08. KING of KIN
09. イオン
10.ときめきファンタジーIII
11. ふれあい
12. 近未来
13. トロフィー

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