『RESTART / 今を歌え』の初回限定盤には『日比谷野外大音楽堂2017 セレクション』がボーナスCDとして付いてくる。そして、これが何ともすばらしいのだ。日比谷野音ライブの空気感までもがそのままCDに凝縮されている感じがして、野音の外で聴いているような感覚に陥った。それはまさに昨年、日比谷野音で"外聴き"をしたときの雰囲気そのものなのである―。
上の記事は昨年の野音のライブを外聴きした際の様子を記したものである。こちらも是非。
ボーナスCDでは2時間半にわたるライブで披露された楽曲の一部が収録されている。CDの収録時間(74分)の問題で厳選を余儀なくされてしまった収録曲。しかしながら、そんな図らずも厳選された収録曲はどれもファンの心をくすぐるものとなった。以下は収録曲である。
01. 悲しみの果て
02. 涙の数だけ
03. おまえはどこだ
04. 曙光
05. too fine life
06. 秋-さらば遠い夢よ-
07. 真夏の星空は少しブルー
08. 月の夜
09. 武蔵野
10. 男餓鬼道空っ風
11. シグナル
12. パワー・イン・ザ・ワールド
13. 男は行く
14. 風と共に
ボーナスCDのトラックの順はライブのセットリストの順に対応していて、最近の日比谷野音ライブの流れが分かるようになっている。ライブ序盤の初期のミドルテンポなずっしりとしたセットリスト。「悲しみの果て」は定番中の定番中の曲になってもボーナスCDに収録してくれたのは嬉しい。何というかこの曲に関しては「今宵の月のように」以上に外せない感が強いようにも思えるからだ。そして、初期の不朽の名曲「曙光」、「too fine life」、今回のダークホース的なセットリスト「おまえはどこだ」。さらに、ボーナスCDには知る人ぞ知る名曲、「はじまりは今」のカップリング曲「涙の数だけ」が収録されている。
すっかりと暗くなり、虫の声が聞こえ始めてくる野音の雰囲気に相応しい、しっとりとしたバラードへと移ってゆく中盤。そんな雰囲気の中披露された、とろけるようなほど美しいバラード「秋-さらば遠い夢よ」。CD盤よりもオクターブ上げた「真夏の星空は少しブルー」、繊細な美しさと破滅的な狂気が増した「月の夜」。"甲州街道"の即興の歌から始まる「武蔵野」、野音の雰囲気にぴったりな「シグナル」。そんな野音の雰囲気に溶け込むような楽曲の数々もボーナスCDにはしっかりと収録されている。
そして、新曲やアップテンポな曲が淀みなく続き、クライマックス向けてボルテージがピークになってゆくライブ終盤。ボーナスCDには、そんな終盤で披露された鬼気迫る演奏の「男は行く」と、振り絞るような「風と共に」が収録されている。
『日比谷野外大音楽堂2017 セレクション』には、2017年の野音のライブにおいて「この曲は絶対外せないだろう」という曲がしっかり収録されている。ライブの"ハイライト版"としては申し分ない。ただ、欲を言うと、本ボーナスCDの収録時間は"69分"であるから、もう1曲ないしはMCぐらいは入れられたんではないかなとも思ってしまう(個人的には「星の砂」、「友達がいるのさ」あたりを入れてほしかった)。更に欲を言うと、初回限定盤の特典なんかにせず、それこそブルーレイとCDセットにして今回の野音のライブを単体でリリースしてほしかった。それ程CDだけのリリースにするのはもったいないくらいすばらしいライブだったのである。
日比谷野音のライブの映像化に関しては、GYAO!で2015年の「夢のかけら」がショートバージョンで公開されていたから、映像自体は間違いなく存在はしているはずである。
それにもかかわらず、なかなか映像化されないのは非常に歯がゆい。エレカシの野音ライブの独特の雰囲気。ファンはそれを楽しみにし、それはもはや"聖地"のような趣になった。お陰様で倍率は年々高くなり、最近では外聴きする人も増えてきた。そして、メンバー達もそんな野音のライブに対して特別な思いを持ち、いつもに増して気合を入れた演奏でファンの期待に応える。セットリストはカップリング曲や初期の曲が普段のライブよりも多め。かつてリリースされた楽曲は、最近の宮本の歌声で歌われると、当時の気迫を凌駕するくらい別次元に進化する。新曲と旧曲が、歴史渦巻く神秘的な会場の雰囲気と相まってよりすばらしいものへと昇華する野音ライブ。そのすばらしさをこの身で感じた者としては、野音ライブの映像化は、新春ライブやアニバーサリーライブの映像化よりも、よっぽど需要がある気ががしてならない。とにかく『日比谷野外大音楽堂2017 セレクション』はそんな特別なライブのエッセンスが空間ごと詰まったかのような、過去最高のライブCDであることだけは確かである。【ほぼ日刊三浦レコード45】