三浦日記

音楽ライターの三浦智文が、日記のようにつらつらと書いていくブログ

【ほぼ日刊三浦シアター2】『明日に向かって撃て!(Butch Cassidy and the Sundance Kid)』(1969)

 1969年に公開されたこの映画は、反体制の人物を主眼に置いた"アメリカン・ニューシネマ"の金字塔として名高い。この映画を知ったのは、先日、突然この世を去った祖母の部屋に置かれていた"新聞欄"がきっかけだった―。

 話は高校生の頃、1人で祖母の家に訪れた時に戻る。あれは正午を回った頃だっただろうか。テレビでは1950年代の邦画が流れていた。一緒にその映画を観ながら色々な話をした。祖母が若い頃に流行っていたものや、好きだった俳優のこと。ふとテーブルの方を見ると新聞欄が丁寧に折られてハサミや虫眼鏡などと一緒に小物入れに入れられていた。その新聞欄を見てみると、観る予定の番組と思われる箇所に印が付けられていた―。

 祖母の葬式が終わった後、親戚一同が祖母の家に集まって宴会をした。祖母の訃報というのはあまりにも突然のことだったので、家の中は生前のままだった。そういえば今でも新聞欄に印を付けているのかな。ふと、そんなことを思いだした。部屋の隅っこの方に小物入れが密やかに置かれているのを見つけた。それは空き箱でできていたし、何の特徴もない形だったので寄せられてしまうのは無理もないなと思った。でも自分にとっては何故だか印象に残っていた。そんな小物入れに入っているであろう"新聞欄"を探してみる……。あった!祖母が亡くなる5日前の"新聞欄"。やはり"印"が付けられている!印は父親と叔父の出身大学に関するニュースの事と『BSシネマ』の所に付けられていた。その時に『BSシネマ』で放映されていた映画、それが「明日に向かって撃て!」だった―。

 南北戦争後のアメリカ西部を舞台に、主人公のブッチ・キャシディ(Butch Cassidy)とサンダース・キッド(Sundance Kid)は銀行強盗や列車強盗(列車内の金庫の強奪)を繰り返す。彼らは紛れもない悪党である。しかしながら、とんでもない悪事を働いているはずなのに、観ている方からしてみると"英雄"のように映ってしまうのが不思議でならなかった。逆に保安官や追手が憎らしくも見えてきたりする。それはやはり、ただの反体制側の映画ではなく、ブッチとサンダースの友情、さらにはヒロインのエッタ(Etta Place)と2人の関係が何ともクールに時にはユーモラスに描かれているからではないだろうか。エッタはサンダースの恋人であるが、同時にブッチとも非常に仲睦まじい関係性を持つ。それは彼らがピンカートン探偵社の精鋭から逃げるべく、アメリカからボリビアへ逃亡する際も3人で行動を共にしている程だ。

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 名曲「雨にぬれても (Raindrops Keep Falling On My Head)」が流れるシーンではエッタとブッチが自転車に2人乗りをし、無邪気に戯れる。よく友達以上、恋人未満なんていうけど、彼らの関係性の不等号はここでは限りなく恋人に近づいている。それでもいやらしさとか背徳感のようなものはここでは感じられず、何というか、お互いにつかの間の安らぎを味わっているような印象を受ける。しかも、その2人の様子を見てサンダースは怒ったりしない。そんな行動は果たして"粋"なのだろうか、男として"失格"だろうか。そんなことはさておき、彼らの関係性はなんとも面白い。先ほど、ブッチとサンダースのことを"英雄"と書いたけれど、この場面だけは普通の人が愛する女性と楽しそうに過ごし、それを呆れたように傍観する恋人という、何とも日常的(?)な風景になっていてこの映画の中ではそれが異端となっている。また、このシーンは演者のアドリブらしいが、それが自然な演技をもたらし、ハードボイルドな映画に柔らかな印象を与えている。

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 ストーリーが進むにつれ、彼らは徐々に追い詰められてゆく。3人はボリビアに逃亡するも、状況が厳しくなってくるとエッタは2人の死ぬ所を見たくはない、とアメリカへと帰ってしまう。残された2人は警官隊に目を付けられ、ついには銃撃戦で負傷してしまう。土壇場で建物の中に隠れるも、いよいよ逃げ道はなくなった。もはや絶望的である。しかしながら、そんな場面においても彼らは弱音を一切吐くことなく、次に逃亡する場所へと思いを馳せる。

「...で、そこは何処なんだ?」

「オーストラリアさ」

「じゃ、さっさと片付けて、こんな国ともおさらばしようぜ!」

いよいよ2人は決意を固め、警官隊で包囲された建物外へと飛び出す。それがストップモーションとなって映画は幕を閉じる―。なんといさぎの良い幕引きなのだろうか。警官隊の声と、銃声がストップモーションに演出を加える。悪事をした人間が殺されるのがこれ程までに悲しく、寂しいものなのか。不朽の名作とはまさにこの作品のことをいうのではないだろうか。そして何よりも、「明日に向かって撃て!」という邦題。ちんけな邦題が世の中に蔓延る中、これは本当にすばらしい邦題だと思う。

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