サザンオールスターズは父が好きなバンドで、カーステレオからしょっちゅう流れてくる。その時に流れてくるのは決まって『バラッド’77~’82』(1982)。どうやら父は最近のサザンよりも、初期のサザンの方が好きらしい。最近もいい曲たくさんあるよ、なんて言っても、やっぱり父は頑なに初期を推してくる―。
というのもサザンがデビューした頃、父は学生で山岳部に入っていた。冬山の登山で吹雪いたときは何もすることができず、山小屋でただただラジオの有線が流れてくるのを聴いていたそうだ。そこでよく流れてきていたのが当時、新進気鋭で世間を賑わせていたサザンだったらしい。そんなわけで、父が学生の頃のサザンには特別な思い入れがあるようだ。イモトアヤコがとある番組の企画で高山を登山するのがあるけど、登山というのは本格的にやるとなると、本当に"生きるか"、"死ぬか"の過酷なものだなと思わされる。父も結構本格的な登山部にいたようで、そんな危険な境地に足を踏み入れていたのかと考えたら、軽音楽を齧っている自分のような甘っちょろい人間は感服してしまう。そんな一歩出れば人が生きていけないような、ちょっとした異世界のような場所で聴いていたら、当然記憶に残るだろうし思い入れも深くなるよな、なんて思った。
父からこの『バラッド’77~’82』を借り、そんな思い出深い初期のサザンを聴いてみた。「Ya Ya ~あの時代を忘れない~」が特に良かった。Bee Geesの"How Deep Is Love"とかBreadの"If"みたいな70年代のソフトロックのテイストがこの曲にはあって、聴いていてなんだかすごく落ち着く。この頃のアメリカやイギリスでは、コーラスのハーモニーが強調された美しいメロディの名曲がたくさん生まれていた。その当時、若者だった桑田はそんな楽曲に影響を受けたことは間違いないはずだ。父に「この曲が一番いいね」と言ったら、「そうだよな、俺も一番好きなんだよ」と色黒の顔をくちゃっとさせて嬉しそうに返した。アウトドア派の父は長年太陽に照らされ、その肌は健康的に焼けている。それに比べてインドア派の自分は血色が悪く色が白い。でも音楽の趣味に関しては、蛙の子は蛙だった。
飲み明かしてた なつかしいとき
ひとり身のキャンパス涙のチャペル
もうあの頃のことは夢の中へ
知らぬ間に遠く years go by
Pleasure Pleasurela la voulez vous
わすられぬ日々よ
弱冠26歳の桑田が書くちょっと達観したような歌詞がまた、父の思い出を鮮やかに彩ってくれているような気がする。年を取ってから沁みてくるような、自分もそんな曲に巡り合ってみたいものだ。【ほぼ日刊三浦レコード31】