三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

花の写真 / スピッツ

 スピッツ13枚目のアルバム『とげまる』(2010)に収録されている曲。カントリー調で明るく、軽やかな曲調には何とも悲しく、切ない歌詞が乗せられている。

小さなカメラがつないでる 切れそうで切れない細い糸

取り残されてるような 古ぼけた街で

そういえば去年もこの花を どうでもいいような文そえて

黄色い封筒に入れ 送ったね確か

また同じ 花が咲いた

遠くの君に 届きますように

鮮やかな 雨上がりで

僕らの明日も 澄みわたりますように

いつかは終わりが来ることも 認めたくないけどわかってる

大げさにはしゃいでいても 鼻がツンとくる

街路樹がさわぐ音の中 靴擦れの痛みも気にしない

水たまりを飛び越え 早足で歩く

また同じ 花が咲いた

大事な君に 届きますように

こんなことしか できないけれど

泣きそうな君が 笑いますように

鮮やかな 雨上がりで

僕らの明日も 澄みわたりますように

 

彼は花の写真を撮って、それに手紙を添えて遠く離れた大切な人に送る。手紙でやり取りするくらいだから、お互いそう簡単には会えないのだろう。というよりも彼女が彼のいる場所から遠く離れた場所にいなければいけない"理由"があるのかもしれない。彼女は病魔に侵されて苦しんでいるのだろうか。だから〈いつか終わりが来ることも 認めたくないけどわかってる〉というところも2人の関係性のことというよりも、彼女の命が儚げに潰えてしまうことを言っているのかなとか思ってしまう。でも、彼はそんな彼女を助けてやることはおろか直接会うことすらできない。だったらせめて自分の行く末を憂う〈泣きそうな君〉が 笑ってくれるように、と彼は写真を撮り彼女に送る。彼にはそうすることしかできない。何だかすごく切実だ。

 

この曲を聴いて思ったのがなんかジブリ映画の世界観っぽいなということだ。ちょっとオールディーな感じでカントリーチックな曲調と相まって思い浮かべたのは『魔女の宅急便』(1988)。この映画の主題歌は「やさしさに包まれたなら」だけど、そのせいかもしれない。暖かみのあるこの曲の雰囲気が「花の写真」と似ている。そんなわけで〈取り残されてるような 古ぼけた街〉は『魔女の宅急便』みたいな海岸沿いにポツンとあるような赤茶色のレンガ造りの小さな港町を想起してしまう。そして、そんな港町の建物の隅っこにあるレンガの割れ目からは一輪の花が咲いている。

 

歌詞に出てくる男女の関係性は何となく『風立ちぬ』(2013)を連想させる。『風立ちぬ』に登場する堀越二郎は関東大震災で菜穂子を助ける。その後、避暑地で偶然再会し互いの中を深め交際を始める。しかしながら菜穂子の持病である結核が悪化し、彼女は人里離れたサナトリウム(療養所)へ入らなければならず、2人は離れ離れになってしまう。「花の写真」の2人にもこんな災難が降りかかったのだろうか。この曲でもそんな2人の関係性の"儚さ"が巧みに表現されている。そして、それを彩る音が明るいせいで余計に"もの悲しさ"が浮き彫りになってくる。スピンオフ映画でも短編映画でもなんでもいいから是非ともジブリに起用してほしい曲だ。【ほぼ日刊三浦レコード24】

 

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