「東京からまんまで宇宙」は『MASTERPIECE』(2012)に収録されている。以前書いた『RAINBOW』(2015)が彼らの転換期だとすれば、
このアルバムの頃はその直前であり、バンドとしてのひとまずの到達点を迎えた段階といえる。この頃のエレファントカシマシは25年というキャリアを良い感じで俯瞰でき、どこか落ち着いたような印象を受ける。それは熟成が進んで雑味が取れ、代わりに深みが出てきたワインのような感じである。
「東京からまんまで宇宙」はそんな熟成されてきたバンドを体現するのにふさわしい一曲である。心臓にビリビリと響いてくるようなギターの音と(はたしてこのシンプルな音作りは何だろうと宮本浩次の機材を調べてみたら、王道機材のマーシャルJCM800だった。そりゃ良いい音が出るなと勝手に合点した)、抜けの良いドラムの音は、無駄なものは一切削がれ荒々しさが剥き出しになっている。それは真冬の海、波しぶきを立てながら岩々を砕かんばかりにぶつかる音だけがこだましている―、そんな極めて洗練された風景のような荒々しさである。その力強さは聴く者の心をストレートに揺さぶってくる。それにしてもシンプルで明快なサウンドである。これぞロックの音だといわんばかりの気概さえ感じられる。そして、そこにはシンプルさゆえの軽さなどは微塵もなく、ベテランバンドとしての存在感がどっしりと鎮座している。
イントロから繰り返される印象的なフレーズは、地上世界「東京」と天上世界「宇宙」との狭間でぐるぐると渦巻く感情の歌詞と見事にマッチしている。
ココから三丁目まで
歩いて歩いた気がした
ジリジリ額にゃあ汗
行く手阻む俺の重み
ああ 気絶しそうさ
そんな疲弊しきった1人の人間模様が描かれるメロディーの部分から、サビの部分での爆発的な宮本の突き抜けるような歌声は、そんな人間をどこまでも高いところへといざない、自分を押し潰してくるような場所からの逸脱をさせてくれる。
心はぐるぐる地平線
交わる期待と不安に押しつぶされそう
東京からまんまで宇宙へ
瞬間で全て愛する 俺は今を生きる
この曲では一貫して鬱屈した日常世界である「東京」と解放された非日常的な空間である「宇宙」が対比的に描かれている。「こんな場所なんかにいちゃあ何もできない、ならいっそ遠い遠い場所まで飛んで行っちまえ」なんていうあまりに極端すぎる逸脱は、時として清々しさをもたらす。実に、痛快極まりない曲である。【ほぼ日刊三浦レコード17】