三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

MUSE来日公演によせて (後編)

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今回の来日公演はニューアルバムを引っ提げたツアーの一環でやるようなライブではない。自分たちのやりたい曲をやるという、いわば現時点の彼らのキャリアにおける総集編的なライブだった。そのため、初めてMuseのライブを観に行く自分にとってはまさにうってつけのライブだった。

 

1曲目は"Dig Down"。Matthew Bellamyが歌いだした途端、瞬く間に会場全体がMuseの世界観に染まってゆく。エレクトロな曲調にギターのアルペジオの音が重なり、だんだんと盛り上がっていく様は、これから起こる予測不可能なイベントの始まりを告げる鐘のように聴こえた。いよいよライブが始まった、と感慨深い感じになっていると、「まだ始まったばっかりだぜ、何喜びに浸ってるんだ!」と言わんばかりに間髪を入れずに、"[Drill Sergeant]"が流れてきた。

"If you do not do, what you are told to do, when you're told to do it, you will be punished, do you understand? AYE SIR!"

無意識のうちに"AYE SIR!"と叫んでいた。

 

その後、すぐさま爆音で"Psyco"が演奏される。ドロップDチューニングの重厚なリフの部分だけでもご飯3杯はいける。会場のボルテージがピークに達したまま、演奏は"Map Of The Problematique"、"Plug In Baby"へと移る。それにしても本当に音響がすばらしい。横浜アリーナという会場のお陰もあるのかもしれないが、「ノイズ」と「歪み」の臨界点すれすれみたいな音でも全然うるさくなくて、むしろ気持ちがいいのだ。"Plug In Baby"冒頭の「ギュイィーン!」というハウリングすれすれの高音が響き渡っても全然耳が痛くならなかった。

 

今回のダークホース的セットリストと言えば、何といっても"Showbiz"だろう。日本で演奏されたのは2001年以来だというから、そのころからのファンの方々は非常に感慨深かったことだろう。例のドミニクスーツの男(前記事参照あれ!)もこの曲が演奏されると否応なしに叫んでいたことからも、この曲が演奏されることがいかにレアであるかが伺えた。そんな初期の曲を演奏したかと思えば、最新アルバム"Drones"のキラーチューン"The Handler"、さらにはキャリア中期の代表曲"Supermassive Black Hole"が立て続けに演奏される。個人的に"Supermassive Black Hole"はMuseを知るきっかけとなった曲なので非常に感慨深かった。

 

"Starlight"では、けばけばしい法被のような衣装に着替えたMatthew Bellamyが通路を闊歩しながら歌う。余談であるが、例のドミニクスーツの男は2日目にも行っていて、同曲が2日目にも演奏されたときにちょっとした奇跡が起きた。というのも闊歩するMatthew Bellamyがドミニクスーツの男を見や否や、"Aha!"といって彼と握手をしたのである。しかもストリーミング配信された映像にその模様もばっちり残されているときたもんだ。彼は本当にラッキーである。友人として心から祝福したい。

 

"Time Is Running Out"あたりからは会場に巨大な風船が放たれ、青緑色の照明とステージ背景の映像と相まって幻想的な空間が作り出されていった。そして"Mercy"が演奏されると、今まで寒色系だった会場は今度は鮮やかなピンク色に染まり、さらには人型の紙吹雪が会場一面に舞い、得もいえぬ幸福感に満ち溢れた空間へと変貌してゆく。

 

ライブ終盤では10分近くにわたる大名曲"The Globalist"が演奏された。この曲はMuseの「静」と「動」の部分が凝縮されていて、曲としてのクオリティーはもちろん、芸術性が高くどこか神々しさを帯びたような美しさがあった。まさに現代の"Bohemian Rhapsody"ともいうにふさわしかった。そしてアンコールでは"Uprising"とド定番曲である"Knights of Cydonia"が演奏された。"Knights of Cydonia"ではお決まりの大合唱が起こり、その余韻冷めやらぬままライブは終演する―。

 

聴覚的な部分だけでなく視覚的な部分にも働きかけてくるような彼らのライブは、壮大なSF映画のようだった。音楽に合わせて切り替わるステージ映像、曲を鮮やかに彩る照明効果、それに彼らのアバンギャルドなサウンドが合わさることで観る者を異世界へと引き込んでゆく。それはなんだか宇宙空間の果てにある、どこか混沌とした場所に投げ出されたような感覚であった。なんとも不思議な体験だった―。

 

最後に、こんなにも素晴らしい体験に誘ってくれた友人にはこの場を借りて、本当に感謝したいと思う。

 

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