高校1年の頃、勉強がてら何気なくラジオを聴いていた時、なんだか「かっこいい」音楽が流れてきた。
「へぇー、the pillowsっていうんだ」
初めて聴いたときというのはそんなリアクションだった。バンドが好きになるきっかけによくある文言で、"よくある何かに打たれたような衝撃"なんてのがあるけど、そんなものはこれっぽっちもなかった。
それから結構な時間が経った。当時よく行っていた高校の近くのレンタル屋で、ふと「the pillows」ってバンドあったよなぁ、なんてことを思い出した。どうやら記憶の片隅にメロディーとバンド名だけは残っていたようだ。the pillowsが陳列されているコーナーから適当にアルバムを選んだ。『Rock stock & too smoking the pillows』。後々気がついたけど、このアルバムはいわばベスト盤的なアルバムで、the pillowsに興味を持ち始めた者にとってはうってつけの逸品だった。帰ってすぐにこのアルバムを大音量で聴いた―。
陽が落ちてもなお中途半端に明るい空を背に、細いパイプが複雑に入り組んだ工場が海沿いにひっそりと佇んでいる。そして、そんな工場には橙色の淡い照明がいくつか点いていて、無機質な感じにちょっとした彩りが与えられている―。彼らの音楽を聴くと、こんな風景を想起させられた。ちょっとした共感覚的な体験である。それは同時にthe pillowsの世界観に一気に引き込まれていった瞬間でもあった。
the pillowsは高校時代、特に通学中よく聴いた。今じゃ警察に捕まってしまうけど、当時は自転車に乗りながらイヤホンで聴いた。そんなもんだからthe pillowsを聴くと通学路の風景が蘇ってくる―。
部活の帰り道、夏の日の長い夕暮れ時、土手を通れば、夕陽に照らされた川の水面がキラキラと揺らめいている。跨線橋に差し掛かれば、大きなビル1つ建っていないこぢんまりした街が橙色に染まっている。看板の壊れた小さな商店街を通る頃になると、ガス灯を模した街灯が寂しげに灯し始める。空を見上げれば、東の方は藍色で、西になるにつれて水色、紫色、赤色のグラデーションになっている。そんな陽が落ちるか落ちないかの色鮮やかな空と、人影のない寂れた商店街で灯るぼんやりとした明かりは何とも言えないコントラストを醸し出している―。
高校の時の記憶というのは年と共にだんだんと薄れてきてしまうけれど、断片的な思い出はあの頃聴いていた音楽とともに美化されていく。人間の頭はほんとよくできているなとつくづく思ってしまう。