三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

PIANO MAN / Mr.Children

ジャズっぽいアレンジが施されたピアノが印象的な「PIANO MAN」、2007年にリリースされた『HOME』に収録されている。このアルバムは彼らのキャリアの中で初めての年間1位を獲得し、セールス的にも大きな成功を収めた。それは大衆からの大きな共感を得たということになる。このアルバムの一貫したテーマは「あえて言うまでもない、日常の言葉、言動、景色等を大切に」。たしかに共感を得やすいテーマであるのかもしれないが、そこまでのセールスを獲得するに至らせた桜井の才能はやはりさすがとしか言いようがない。この曲でもそうした「普遍的な日常の情景」が表れている。

 

ある男が、テレビをつけっぱなしにしたまま、明け方近くまで過ごしている。何をするわけでもないのに寝ることができないあのぼんやりとした感じだ。そういう時に限って余計なことが浮かんできてしまうもので、その男は自分の仕事を「やめちゃおうがどうか」と思ったところで結局のところ、自分が誰にも望まれていないのだと確信してしまう。そう思ったが最後、男は自分を信用することができず、考えることすら飽きてしまう。けれども何をしたってしなくたって時間"だけ"は進んでいくことにいずれ気が付く。だったら無限大の可能性を信じて自分の好きなように生きてみよう、今の状況を打破してみようと、男は決意する。"It's gonna be all right"を合言葉にして―。

 

この曲では資本主義社会の駒として働かされている現代人の切なる思いが巧みに描かれている。「陰鬱」と「解放」がストーリーじみて展開されるが、全体を通して歌詞とメロディーぶつかり合うことなくうまく溶け合っている。そんな至難の業を難なくやってのけるのも桜井の才能なのだろうと思う。とくにサビの

志と理念ばっか大きな顔して

という部分の歌詞のはめ方はすごく気持ちがいい。そんなもんだからたまにこの曲を思い出してはつい口ずさんでしまう。すると呪文ではないけれど、覚えやすいメロディーに乗せられて、歌詞が断片的ではあるが反芻され、"何となく"頑張ってみようかな、新しいことやってみようかなという気分にさせられる。この曲は何気ない日常にちょっとしたオアシスみたいなものをもたらしてくれる、そんな存在です。【ほぼ日刊三浦レコード10】

 

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