三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

邦楽

夢想的で甘美なラブソング——エレカシ全作レビューⅩ『愛と夢』

かの三島由紀夫の遺した短編、『白鳥』にはこう書かれている。 恋人同士といふものはいつでも栗毛の馬の存在を忘れてしまうものなのである。 登場する高原という寡黙な男と邦子という女性は乗馬クラブにて、一頭の白馬をきっかけに知り合う。互いに白馬を譲…

その喉、エフェクターあり―宮本浩次「Do you remember?」レビュー

宮本浩次の歌声はもはや楽器だ――。 Hi-STANDARDのギタリストKen Yokoyamaとのコラボレーション作品となった今作。メロコア・パンクな2ビートやギターやベースの刻み方は、まさにHi-STANDARDそのもの。それは、宮本が昨年、エレファントカシマシとしてリリー…

シーンに対する迎合——エレカシ全作レビューⅨ『明日に向かって走れ-月夜の歌-』

エレファントカシマシ9作目となった『明日に向かって走れ-月夜の歌-』は、彼らのキャリアの中で最大のセールスを記録した。本作がリリースされた1997年といえば、CDの売り上げは最盛期を迎え、テレビ番組は軒並み高視聴率を連発していた時期である。特に、テ…

いつの時代にも寄り添うスタンダード——エレカシ全作レビューⅧ『ココロに花を』

1994年、エピックとの契約が切れたのち、ポニー・キャニオンから再出発を果たした8枚目『ココロに花を』。彼らと同時代のUSのグランジやパンク、あるいはUKのオルタナティブ・ロックが内包されたこれまでの作品から大きく舵を切り、エレファントカシマシは遂…

東京のサウンドスケープ——エレカシ全作レビューⅦ『東京の空』

一本の映画を観たような感覚だった——。 エレファントカシマシ7作目となった『東京の空』で描かれるのは東京の空の下、繰り広げられる人間模様。一人称視点の情景はリリース当時の1990年代、あるいは現在にまで通じている。電車の窓から見えるのは密集した住…

日本で進化を遂げたパンクの到達点——エレカシ全作レビューⅥ『奴隷天国』

"自己"と"世間"とのあり方は、デビュー作『THE ELEPHANT KASHIMASHI』(1988)から6枚目となった『奴隷天国』(1993)に至るまで、エレファントカシマシの作品を貫く大きなテーマであったように思える。殊に、4枚目の『生活』(1990)以降には、自己と世間との間に…

和洋クラシックの融合——エレカシ全作レビューⅤ『エレファントカシマシ5』

まるで焼畑農耕で全てを焼き尽くした後に、新たな生命が再び芽吹いてきたような作品だ―。前作『生活』でみせた破滅的な情感の爆発。それから1年7か月というスパンを経て出来上がったのは、力の抜けたなんとも明快でわかりやすい作品だった。また、"メッセー…

島国ニッポン発のグランジ——エレカシ全作レビューⅣ『生活』

これほどまでに聴いていて辛いアルバムは、世界的に見ても中々ないのではないだろうか。再生ボタンを押した瞬間、歪み切ったギターの音とボーカルの叫ぶ声が、ひたすら強調された凄まじい音の塊になって襲い掛かってくる。リード・ギターの音はほとんとどい…

反俗的な日常を描く——エレカシ全作レビューⅢ『浮世の夢』

エレファントカシマシの初期の作品はパンクである——。一般的にはそのように形容されることが多いように思えるが、1989年リリースの彼らの3rdアルバム『浮世の夢』は、世間というものに対してメッセージをぶつけるような"パンク・アルバム"ではない。ひとまず…

"エレカシ流グルーヴ"の芽生え——エレカシ全作レビューⅡ『THE ELEPHANT KASHIMASHI Ⅱ』

2作目というのは、ある種アーティストにとって一つの関門である。1作目の成功が仇となりそのまま没落していくか、Nirvanaのように『Nevermind』で爆発的なグランジ・ムーブメントを巻き起こすか。あるいはOasisの『Morining Glory (What's The Story?)』のよ…

今もなお、色褪せぬ眼差し——エレカシ全作レビューⅠ『THE ELEPHANT KASHIMASHI』

時間がたっても古臭くならない――そんな作品があるとしたら真っ先にエレファントカシマシのファーストアルバム『THE ELEPHANT KASHIMASHI』を挙げるだろう。1988年、平成末期"バブル景気"真っただ中の日本で産み落とされた本作。ただ、好景気に浮足立ったよう…

"アンバランスさ"こそ武器である―BOYS END SWING GIRL ワンマンライブ@WWW X ライブレポート

ライブはこの日のために作ったという、オープニング・ムービーで幕が開けた。インストゥルメンタル・バージョンの「ナニモノ」をバックにオフショットやライブ映像、さらにはこれまでの彼らのディスコグラフィーが走馬灯のように流れてゆく。そして、メジャ…

エレファントカシマシという支配体制へのパンク・ロック―宮本浩次「昇る太陽」レビュー

長きにわたって第一線で活動してきたバンドには、"大御所"だとか"ベテラン"という枕詞がつけられがちである。時にそれは大きな足かせとなって、バンドのイメージを固定化させるものとなったり、新曲を出しても新鮮味をもって聴かれなくなったりしてしまう。…

エレカシ宮本 蔦谷好位置について語る

ジョー横溝氏がMCを務めるInter FM、『ほぼ週刊○○ナイト! "ほぼ週刊宮本浩次ナイト!"』にて、エレファントカシマシの宮本氏が蔦谷好位置氏について語る場面がありました。これが放送されたのは2010年。ちょうどアルバム『悪魔のささやき~そして、心に火を灯…

エレカシの日比谷野音 2019 2日目 ライブレポート―30回目の野音、雨の祝祭

エレファントカシマシ30回目の野音の2日目は雨。ただ、この日も多くの人が集まってきていた。空はどんよりと鉛色になり、ビルの上の方は靄がかかっている。日比谷公園の池のほとりにある、木の下で開演の時を待つ。粒の大きい夏の雨が木に当たり、それが時折…

エレカシ宮本 "無限ビート"について語る

2012年、NACK5のラジオ番組『J-POP TALKIN'』でのパーソナリティ田家秀樹氏とのインタビューにて、エレファントカシマシの宮本浩次氏が"無限ビート"について語っていた。備忘録として少しばかり書き起こしてみたい。 田家秀樹(以下田家):宮本さんは、生き急…

エレカシの日比谷野音 2019 ライブレポート前夜―2日間で全く違う"音の風景"

今年のエレカシの日比谷野外音楽堂でのライブは、2日間とも外で聴きました。もう、外から聴くのでも十分すぎるもので、本当に素晴らしいものでした。日は曇り空。午前中から降りしきっていた雨は止み、梅雨のほんの僅かの中休みとなったこの日、開演前から外…

草野マサムネ 音楽をアルバムで聴くことについて語る

音楽をアルバムで聴くことについて、『SPITZ 草野マサムネのロック大陸漫遊記』にてスピッツの草野マサムネ氏が語っていました。気になったので、少しばかり書き起こしをすることにします。以下書き起こし。 これはですね、広島県の方からです。「学校の友達…

初夏、草原、さわやかな風—スピッツ「優しいあの子」レビュー

初夏の広大な草原で、さわやかな風に吹かれている——。スピッツの通算42枚目となるシングル「優しいあの子」を一聴したときに、パッと浮かび上がってきたのは北の端にある牧歌的な風景。そしてそこでは、『ロード・オブ・ザ・リング』に登場する、遊牧民族の…

"ミヤジの部屋"へようこそ―〈ソロ初ライヴ!宮本、弾き語り〉ライブレポート

ありとあらゆるものの密度が濃かった。そして、その濃さをかき回すかのように"混沌"が渦巻いていた―。これは6月12日、宮本浩次53歳の誕生日にLIQUIDROOMで開催された〈ソロ初ライヴ!宮本、弾き語り〉のライブレポートである。 昨年エレファントカシマシは、…

"エレカシの宮本浩次"と"ソロの宮本浩次"―〈ソロ初ライヴ!宮本、弾き語り〉ライブレポート前夜

"エレファントカシマシ宮本浩次"と"ソロアーティスト宮本浩次"は全くの別人である——。ソロ活動というものが、エレファントカシマシの延長線だとすれば、この命題のようなものは決して"真"になることはない。けれども、〈ソロ初ライヴ!宮本、弾き語り〉では…

6月12日の宮本浩次〈ソロ初ライヴ!宮本、弾き語り〉に寄せて

宮本のソロ活動がついに本格的に始動した。その皮切りとなるのが、今月6月12日に行われるソロライヴ〈ソロ初ライヴ!宮本、弾き語り〉だ。そして、その会場に選ばれたのはなんと、LIQUIDROOM。キャパシティーは約900人程度と、需要と供給が日比谷野音でのラ…

Mr.Childrenのライブで感じた疑問―〈Against ALL GRAVITY〉東京ドーム公演 ライブレポート

幸いなことに、Mr.Childrenのドームツアー〈Against ALL GRAVITY〉の東京ドーム公演に行くことができた。野球好きの筆者としては、東京ドームといえば、4月のイチローの引退試合、さらには先日引退した上原浩治の本拠地球場である。そんなわけで、会場(グラ…

GLAYのライブ、内輪ネタの究極系

GLAYといえばさかのぼること10年ほど前、筆者が中学生の頃しばしば聴いていた。当時はビジュアル系のバンドが好きで、特にX JAPANをよく聴いていた。で、その弟分的な存在であるGLAYだとかLUNA SEAだとかも派生して聴くという感じだった。GLAYがビジュアル系…

ただのポップバンドでは終わらせない、新しい扉を開けるんだ―BOYS END SWING GIRL『NEW AGE』解説

ただのポップバンドでは終わらせない、新しい扉を開けるんだ―。 2018年、彼らは4作目となるミニアルバム『NEW AGE』をリリースした。今までのストレートなギターロックサウンドから一新させたポップなサウンドの今作は、「全年齢対象バンド」という彼らのコ…

化けの皮を被ったヒップ・ホップ——宮本浩次「解き放て、我らが新時代」レビュー

先日リリースされた、宮本浩次の2作目となるソロ・シングル「解き放て、我らが新時代」。一聴したときに感じたのは、エレファントカシマシの2000年代初頭の頃の作品。この時期の彼らといえば、宮本のソロ・ワーク的な作品が続いていたが、そんな『good morni…

春の憂鬱、そして日常―SASORI『Silver topaz / mellow』 レビュー

左からMK(Gt.)、小杉真咲(Gt./Vo.)、中川ヒロキ(Dr.)。 長い冬の頃には、春が待ち遠しい。けれども、いざ桜の季節になると、淡く美しい景色とは裏腹、出会いや別れに際し、どこか後ろめたく憂鬱な気分になりがちだ。SASORIの記念すべき1枚目となるシングル『…

エレカシの「桜の花、舞い上がる道を」の"幹"を太くしているものは何か

「桜の花、舞い上がる道を」。この曲は、桜の季節になると無性に聞きたくなってくる。桜の風景をみていると、楽曲が脳内で再生され、見事な融合を果たすのである。そんなわけで、今年もこの曲について、つらつらと書いてみることにした―。 東京の方では、桜…

エレカシの宮本の歌声、そしてライブへのススメ

エレファントカシマシのボーカリスト、宮本の歌声。それはどこで最も映えるかというという問いがあれば、間違いなくライブであると答えるだろう。ライブが音源と異なるのは、空間的な反響の音を感じられるということだ。宮本の、ライブでの歌声を例えるなら…

レスポール・ギターは最高だ

数あるギターの中でも、レスポール・ギターが好きだ。丸みを帯びたシェイプに、シンプルな装飾。サウンドの方も柔らかくて、温かみがある。現在、筆者が所有しているギターは、グレコのEG56 ゴールド・トップ(79年製)。先輩から譲り受けてからというもの、大…